COLUMN
2022.07.06
日本電産・永守氏、ユニクロ・柳井氏 手練れの経営者が社外取締役に就く意義 【経済ジャーナリスト・井上久男氏 寄稿】
日本の大会社では、歯に衣着せぬ発言で本質を突き、人間としても...続きを読む
今年4月に発足した東京証券取引所のプライム市場に上場する企業は取締役の3分の1以上が社外であることが求められ、従来の「2人以上」から基準が高くなった。これに先立ち、会社法も改正され、2021年からは上場、非上場を問わず、資本金が5億円以上か負債総額が200億円以上ある「大会社」や、株式の譲渡制限がない会社などには1人以上の社外取締役の設置が義務付けられた。
内輪の論理ではなく、社外の視点でコーポレートガバナンスをチェックすることが社外取締役に求められる大きな使命と言えるだろう。一方で、社外取締役制度を強化すれば、ガバナンスがしっかりするのかといえば、必ずしもそうとは言えない。
少し古い話になるが思い出してほしい。2001年に粉飾決算により経営破たんした米国の電力会社エンロンには社外取締役がいたが、不正会計を見抜けなかった。最高経営責任者(CEO)のMBA仲間が社外取締役に入っており、厳しいチェックができていなかったのではないだろうか。
「クローニーキャピタリズム(仲間内資本主義)」という言葉がある。経営者や権力者に近い人物が経済的な利得を売る資本主義のことを指す。経営者の友人が社外取締役に入って、経営監視をなあなあで済ませて役員報酬をもらうことは、その仲間内資本主義の部類に入るだろう。政治形態は共産主義、経済の実態は資本主義の中国で、共産党幹部の子弟が国有企業などのトップに就くことも同様だ。
日本でも社外取締役の導入が進んできたが、ガバナンス不全による企業不祥事が目立つ。その最たる例が東芝の粉飾決算や、日産自動車の元会長カルロス・ゴーン氏による特別背任事件だ。
「ガバナンスの総本山」とも言うべき東京証券取引所などを傘下に持つ日本取引所グループ(JPX)でも18年11月、清田瞭CEOが東証上場のインフラファンドに個人的に投資し、それが社内規定に違反していたことが発覚。清田氏に対しては月額報酬30%カットを3カ月という処分が下された。
しかし、「本来であれば清田氏は辞任すべきところだが、処分が軽すぎる」といった見方も出ていた。まともな社外取締役であれば、清田氏の首に鈴を付けたであろう。JPXの社外取締役の一人が作家の幸田真音氏。当時は、日本たばこ産業、三菱自動車、LIXILグループといった大企業の社外取締役を兼任していた。4社も社外取締役を兼任し、物理的にしっかりチェックする余裕があるのだろうかと疑った。
その問題の頃、知り合いのグローバル企業の女性幹部が「今の流行は女性登用。定年退職後はお気軽に社外取締役を何社かやって余生を過ごしたい」と能天気なことを言っていた。法改正などによって社外取締役のニーズが増えれば、こんな能天気な考えの持ち主でも経歴がある程度整っていれば、適性や能力には関係なく、引く手あまたの時代になっている。そのいい例が、社外取締役がキャリア官僚の「天下り」として活用されていることだ。
日本は制度としてガバナンス改革をやってきたが、それが会社業績の向上に結びついているように到底見えないのは、能力や適性に欠ける社外取締役が増殖していることと無縁ではあるまい。
社外取締役に求められる要素を端的に挙げれば、経営トップ選定への関与、経営への助言と監視などだ。就任先企業との利害関係での独立性も求められる。そして何よりも重要になるのは、事なかれ主義に陥らず、おかしいことや間違ったことは堂々と指摘する姿勢である。社外取締役が経営トップのイエスマンではいけないということだ。
今重要なことは、社外取締役制度という形だけを整えることよりも、取締役会の機能とは何かといった本質的な問題を改めて考え直し、その質を向上させていくことではないか。そのためにも社外取締役に求められる資質や能力を目に見える形で定義し、実績を評価、格付けしていくような社会的なスキームを構築していく局面にあるのかもしれない。
さらに選んだ企業は、その選任理由を明確に株主などのステークホルダーに開示していくべきだ。
そもそも社外取締役は非常勤であり、部下を持たないことなどから情報収集するためのリソースが限られている。そうした状況で、複数の社外取締役を掛け持ちすること自体に難がある。また、報酬も固定されていることが多く、業績に関してのインセンティブも働かないような位置づけになっている。
こうした社外取締役の「弱点」を補うような発想も必要になってくるのではないだろうか。いずれにせよ、社外取締役を「ただいる」存在から、使いこなすという形にしていかないと、新時代のコーポレートガバナンスは構築できないし、企業の成長もありえない。まして、気候変動対応に加えて今回の新型コロナの蔓延やウクライナ危機などにより、企業の置かれた環境が大きく変化している。こうした変化に対応しながら生き延びていくためには、これまで以上に外部の視点を経営に取り込んでいく発想が重要になっている。