COLUMN

INTERVIEW

2022.12.15

日本企業に求められる社外取締役との正しい関わり方とは 【Vol.1】ガバナンス対応に精一杯な現状


2021年3月の会社法改正により、社外取締役を置いていない上場企業の義務は、「理由の開示」ではなく「1人以上の社外取締役の設置」となり、日本のコーポレート・ガバナンス(以下ガバナンス)は進歩した印象ですが、実態はどうでしょうか。

社外取締役の設置を義務化したのはよいものの、“お飾り”になっているケースも少なくなくありません。はたしてこの状況のまま日本のガバナンスは進んでしまってよいものかと疑問が残るのも事実。そこで今回は、スカパーJSATホールディングス社外監査役、豊田通商株式会社社外監査役、みずほ信託銀行社外取締役(監査等委員)を務める高橋 勉氏に、「日本企業に求められる社外取締役との関わり方」をテーマにお話を伺いました。

高橋 勉 氏

公認会計士。1979年11月、オランダに本部を置くKPMGの前身のピート・マーウィック・ミッチェル会計士事務所に入所。2003年からKPMGが提携するあずさ監査法人の代表社員となり、2013年から2018年にはKPMGジャパンチェアマンを歴任する。現在はスカパーJSATホールディングスおよび豊田通商株式会社の社外監査役、みずほ信託銀行の社外取締役を務める。

「何をしたいのか」を共有できない現状

日本の社外取締役にとって強く必要だと感じるのは「社外取締役に対する会社のマインド」です。ルールとして社外取締役を設置する会社は多いですが経営者やマネジメントクラスが何を考えているのか、何がしたいのか、これを共有できていないケースが多いように感じます。

もちろん、社外取締役側のマインドも大切です。社外取締役を単なるポートフォリオと考えるのではなく、経営者やマネジメントクラスの“良き理解者”であり、同時に“良き対立者”でなければいけません。

私が社外役員(社外取締役および社外監査役)を務めている会社では、経営者やマネジメントクラスとの継続的な対話により、「社外役員としてこの会社にどう貢献すべきか?」が明確になっています。これは社外役員という立場において、幸せなことと考えています。

言い換えれば、会社・社外取締役の双方にとって不幸な結果になってしまうケースは、ここ日本ではまだ多いのかもしれません。

海外では当たり前に考えられている2つの要素不足

1989年の世界時価総額ランキングにおいて、トップ50のうち32社もの日本企業が名を連ねていました。しかし現在、トップ100で見ても日本企業はトヨタ自動車1社のみです。

現在トップ50に名を連ねている海外企業の多くが先進デジタル企業であることを考慮すると、仕方ない部分も大きいかもしれません。しかし、社外取締役である我々は、この事態を重く受け止める必要があると考えています。

日本では社外取締役及び取締役会の機能・役割よりも、法整備が先行してしまい、ガバナンスという言葉が一人歩きしているのが現状です。つまり、「ルールやコンプライアンスの問題だから」という理由で社外取締役を設置する企業が多く、それだけでなく社外取締役側にも「会社のバリューを上げて、自分自身もさらにステップアップしよう」と考える社外取締役が少ないのです。

社外取締役及び取締役会を正しく機能させるスキル・ノウハウを持つ海外企業。さらに、社外取締役としての役割を全うしようとするエグゼクティブ人材の存在。海外では当たり前に考えられているこれら2つの要素の不足が、この30年で日本企業の多くが世界時価総額ランキングから姿を消した理由の1つだと言えます。

まとめ

世界市場で従来の輝きを取り戻すには「会社と社外取締役の関わり方を正しい方向へ導くこと」が重要であり、社外取締役側も会社のバリューを高め、自身のスキル・ノウハウを活かそうと積極的になれる社外取締役は、決して多いわけではないこともわかりました。会社の価値創造や改革にコミットメントし、経営者やマネジメントの“良き理解者”であり”良き対立者”となる社外取締役を、悩める日本企業に紹介することこそ、我々JSEEDSの使命だと思います。

*本連載はVol.2へと続きます