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2024.06.20

【オーナー企業のガバナンス】日本を代表する7社の事例から読み解く、その最新事情と課題


日本を代表するオーナー企業5社のガバナンス体制を徹底解説。社外取締役の顔ぶれやオーナー企業特有の課題、ガバナンス改革の最新動向まで紹介します。

近年、コーポレートガバナンスの重要性がますます高まっています。特に、オーナー企業においては、その独特の構造から、ガバナンスの在り方が注目されています。今回は、日本を代表する7つのオーナー企業の事例を基に、その最新事情と課題について解説します。

オーナー企業におけるガバナンス上の課題とは?

オーナー企業とは一般に、創業家や一族が所有・経営に深く関与している企業を指します。所有と経営の一致により迅速な意思決定が可能ですが、後継者問題や閉鎖的な組織体制といった課題も抱えています。

オーナー企業におけるガバナンス上の課題として、大きく以下の3つがあります。

  • 後継者問題: オーナー一族以外の人材登用や育成が難しく、オーナー一族からの選出をしても実力が伴わなければ求心力が低下してしまう。
  • 閉鎖的な組織体制: 外部からの意見を取り入れにくい
  • 情報開示の不足: 経営状況や財務情報を最低限以上開示しない傾向がある

これらの課題を解決するため、社外取締役の積極的な登用や情報開示の強化など、ガバナンス改革に取り組む企業が増えています。

日本を代表する7社のガバナンス体制

日本の有名なオーナー企業として7社を挙げ、それぞれの状況を確認していきます。

※2024年6月時点

これらの企業は創業家や一族のリーダーシップの下、独自の経営戦略で成長を遂げてきました。中には一代で大きく成長させ、日本経済に大きな影響を与えるだけでなく世界市場でも存在感を示す企業にまで発展している企業もあります。

取締役への期待と機関設計の関係

別の記事で紹介しているように、ガバナンス体制・機関設計によって取締役会に期待する役割が変わると考えられます。

オーナー企業においては同族経営を活かした迅速な意思決定が特徴であるため、それを活かした監査役設置会社が多くなると予想されましたが、予想通り上記7社中5社が監査役設置会社となり、監査等委員会設置会社は2社にとどまりました。また、最も強固に経営と執行の分離を行う指名委員会等設置会社は0社となる結果になりました。

7社の登用する社外取締役

以下、7社それぞれの登用する社外取締役についてまとめてみました。

企業名氏名経歴
トヨタ自大島眞彦株式会社三井住友銀行 副会長
トヨタ自Sir Philip Craven国際パラリンピック委員会 前会長
トヨタ自大薗恵美一橋大学大学院経営管理研究科 国際企業戦略専攻 専攻長・教授
トヨタ自菅原郁郎元内閣官房参与
サントリー増山 美佳元エゴンゼンダー パートナー、増山&Company合同会社代表社員社長
サントリー三村 まり子西村あさひ法律事務所弁護士(オブカウンセル)
サントリー中村 真紀元 合同会社西友執行役員、株式会社まんま代表取締役社長
ファーストリテイリング服部 暢達元 ゴールドマンサックスMD、慶応義塾大学大学院経営管理研究科 客員教授
ファーストリテイリング新宅 正明元 日本オラクル株式会社 代表取締役会長、公益財団法人スペシャルオリンピックス日本参与
ファーストリテイリング大野 直竹元 大和ハウス工業株式会社特別顧問
ファーストリテイリングキャシー松井元 ゴールドマン・サックス証券株式会社副会長、MPower Partners Fund L.P. ゼネラルパートナー
ファーストリテイリング車戸 城二元 株式会社竹中工務店顧問、早稲田大学創造理工学部建築学科 非常勤講師
ファーストリテイリング京谷 裕三菱食品株式会社 代表取締役社長兼CSO兼CHO
ソフトバンクG飯島 彰己元 三井物産代表取締役会長、日本銀行 参与
ソフトバンクG松尾 豊東京大学大学院工学系研究科教授
ソフトバンクG襟川 恵子(株)コーエーテクモゲームス取締役名誉会長
ソフトバンクGKenneth A. SiegelMorrison & Foerster LLP, Board Director, Member of Executive Committee
ソフトバンクGDavid Chao元 日本通信(株)共同設立者兼CTO、DCM Ventures, Co-Founder and General Partner
キーエンス谷口 誓一みのり監査法人パートナー
キーエンス末永 久美子弁護士法人大江橋法律事務所カウンセル
キーエンス吉岡 理文大阪公立大学大学院情報学研究科 教授
楽天G安藤 隆春元警察庁長官
楽天GSarah J. M. WhitleyScottish Episcopal Church Pension Fund Chair
楽天GTsedal Neeleyハーバード大学経営大学院Faculty Chair of the Christensen for Teaching and Learning
楽天GCharles B. BaxterRakuten USA, Inc. Chairman and Director
楽天G羽深 成樹元内閣府審議官、元三菱ケミカルHD SVP
楽天G御立 尚資元株式会社ボストン・コンサルティング・グループ日本代表
楽天G村井 純元慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科委員長、元内閣官房参与
日本電産佐藤 慎一元財務事務次官
日本電産小松 弥生独立行政法人国立美術館東京国立近代美術館館長
日本電産酒井 貴子大阪公立大学大学院法学研究科教授
日本電産山田 文京都大学大学院法学研究科教授
日本電産渡邊 純子京都大学大学院経済学研究科教授
日本電産豊島 ひろ江中本総合法律事務所パートナー
※2024年6月時点

この結果から、オーナー企業におけるガバナンスの在り方について、いくつかの示唆が得られます。

①監査役設置会社の選択: 予想の通り、少なくとも上記7社のうち5社が監査役設置会社となりました。オーナー企業として、意思決定スピードを確保したいという狙いから監査役設置会社となっているものと考えられます。一方で、2社のように、監査等委員会設置会社を選択する企業も増えており、これは

  • 企業規模の拡大やグローバル化に伴いより高度なガバナンス体制が求められるようになったこと
  • 海外投資家からの評価を意識していること

が背景にあると考えられます。
また、日本電産のように監査役設置会社から監査等委員会設置会社へ移行したり、楽天のように逆に監査役設置会社へと戻ったりするケースも見られます。企業がどのフェーズにあるのかにより経営の力点も変わり、選択する機関設計も変わってくるのでしょうか。

②社外取締役の積極的な活用: 7社のうち多くの企業で、多数の社外取締役を採用しています。社外取締役を多数活用することで経営の透明性・客観性を高めることができると言われていますが、経歴を見ると必ずしもそういった狙いだけではないように見えます。現在、東京証券取引所プライム市場に上場している企業は、コーポレートガバナンス・コードに基づき、以下の基準を満たす必要があります。

  • 原則4-8: 独立社外取締役を3分の1以上選任すること。
  • 補足原則4-8①: 取締役の過半数を独立社外取締役とすることを推奨。
    こういった事情も含め、多数の社外取締役を採用しているケースがある可能性があることにも留意が必要と思われます。

③指名委員会等設置会社の不在: 前述のとおり、オーナー企業に特有の問題として後継者問題や事業承継などが挙げられます。こういった問題に対しては特に指名委員会を設置するなどして適切なガバナンス体制を構築することが求められるように思います。しかしながら実態として、今回の7つの企業では指名委員会等設置会社の採用が見られませんでした。企業の持続的な成長を考えると、今後は指名委員会等設置会社へと移行し、指名の透明性の確保することを視野にいれてガバナンス体制の構築をしていくことが期待されます。

    以上のように、オーナー企業におけるガバナンスの在り方は多様であり、正解は一つではありません。各企業は自社の置かれた状況や経営課題に応じて最適なガバナンス体制を選択し、それに見合った最適な人材を熟考し模索していくことが期待されます。